OZROSAURUS / “OZBUM ~A:UN~” TOUR 2012
OZROSAURUS 5年振り、5作目のALBUM「OZBUM ~A:UN~」TOURの模様を完全収録。
“One Shot, One Kill(=一撃必殺)”とでも形容したくなる、ハズしのないMACCHOのフィーチャリング・ヴァースに限って言えば、前作『Hysterical』から今日までに経過した5年強の間もリスナーの耳元には常に“完成品”が届けられていた。
しかしOZROSAURUS(以下OS)名義の音源となれば、また話が変わってくる――。4年半ぶり5枚目のアルバムとなった『OZBUM ~A:UN~』は、リリース5ヵ月後の2012年9月7日にようやく初めての完成を迎えた。川崎CLUB CITTA'にて開催されたワンマン・ツアー・ファイナルのその日に、である。
「出したばっかりの頃は俺もそこまで実感が無かったけど、ワンマンをやったことで一通り完成したような感覚がある」(DJ SN-Z)
「ライヴはすごくOSをイメージさせるものだと思うし、本当の意味で証明してみせる場所。答は無いけど、みんなの反応も見られる。自分の作った歌をみんなが直接体感して『本物か偽物か』を判断すると思うから。9月7日にやっとアルバムが完成した気分」(MACCHO)
こういった見解からも読み取れるように、OSとしてもかねてから重視していたライヴ・パフォーマンスこそが『OZBUM ~A:UN~』にある意味で欠けていた最後のピースであり、彼らが“真の完成”と口を揃えるその瞬間を鮮明に記録したのが本DVD作品というワケだ。
ところで今回OSがファイナルの会場として選んだ老舗CLUB CITTA'は、実に長く有意義な歴史を誇っている。“国内ヒップホップ・シーンの発展”という視点で考えれば貢献度はとりわけ大きく、もはや“聖地”と呼んでも決して大袈裟ではない。無論、そんな“聖地”に対して抱く強い思いはOSとて例外ではない。
「俺が15歳の時、初めてPUBLIC ENEMYのライヴをここで観た。その時の衝撃や感覚、ニオイ、温度感は大人になった今もずっと忘れてない。今までここではいろんな伝説が起きたと思うし……特別な場所ですね」(MACCHO)
「俺がニューヨークから帰ってきて、1番最初に体験したデカいステージがここだった。MACCHOが交通事故から復活して1発目のライヴ、……松葉杖でライヴしてたあの時のイメージが強い。5枚目のファイナルで、またこのステージに立ててすげぇ良かった」(DJ SN-Z)
OSとも縁深いそんな会場のステージ脇には、ライヴ当日、彼らが敬愛して止まない“横浜が世界に誇る”レゲエ・サウンド=MIGHTY CROWN所有の巨大スピーカー“THE NEXT LEVEL SOUND SYSTEM”が鎮座。開演前のMIGHTY CROWNのプレイやフロントマン=MASTA SIMONの煽りも含め、絶好のサポート体制を背に幕開けたファイナルとなったが、実はそうした重要なライヴを前にOSは大きな問題を抱えていた。5日前に開催されたワンマン名古屋公演で、MACCHOが商売道具の喉を痛めてしまったのだ。
「前日の夜には、はっきり言って無理だなっていう段階までいった。それでも夜中にSN-Zと病院に行って、最終的にどうなのかチェックしたら、喉は膿んでたけど声帯は辛うじてセーフで。あとは自分の体力と気力次第っていう話だったし、それならやるしかないじゃん?注射や点滴を何本射とうが絶対的に時間が足りない状況だったから、時間を計算して射った鎮痛剤が効いてる間にライヴを終わらせた。熱も38.5℃くらいあったけど、そんなのを見ても気が滅入るだけ。とにかく今できるベストを尽くすしかないなって」(MACCHO)
そんな病状をライヴのMC中に吐露したMACCHO。そこまでして強行した理由を問えば、いつもの表情を崩すことなくこう語ってくれた。
「半年前から約束してて、その日、その場所に集まってくれる人がいる以上やろう、と。今までのキャリアでも、特に大変なライヴだった。目の前の人たちをがっちりロックすることだけに集中してた。でも『乗り越えられたら、絶対に何かあるな』って思ってたし、やっぱりその価値があるものだった」(MACCHO)
「普段もライヴは一生懸命だけど、あの困難を乗り越えてやるライヴはまた違うと思う。お客さんにはどう見えてるか分かんないけど、自分たちの中ではまったく違うもの。だからあの日のライヴはデカかった」(DJ SN-Z)
OSからすれば大苦難を伴った今回のファイナルだが、同時に“声が出ないなら気持ちで。何としてでも伝えたい”という彼らの必死な思いが気迫とともに十二分に伝わってくる魂のライヴでもあった。MACCHOのリリックとして綴られた言葉たちはもちろん、“困難”も“それを乗り越える力強さ”も、その様子を観ているこちらが感じる“熱量”や“感動”も……すべてが『阿吽(あ・うん)』という言葉に集約されていたように思う。
「リリックを全部知ってる人たちがいっぱいいるっていうのは、ライヴしてる側にははっきり分かる。その空間が、秒単位で同じテンポ、同じ温度で進行してる感じが面白かったし、やりがいもあった。でも目標としていたものが終わってしまうと、次に向かっていくべき目標を見ていなければ耐え難いから。今はもう次に進みたいと思ってます」(MACCHO)
「言葉は悪いけど、あれは一つの通過点。あれがあってまた次に行きたいと思うし、だからこそ行ける。自分的にはOSを観に来てくれるお客さんに対して、また違うライヴをやりたくなったっていう感覚ですね」(DJ SN-Z)
「達成感がないワケじゃないけど、SN-Zの言った通り。本当に通過点だからね」(MACCHO)
遂にアルバムを完成させた彼らの言葉には、未来への決意が滲んでいる。そして、4つの目は既に自分たちが進むべき方向を見据えている。困難とそれを乗り越えたという達成感――双方を経験したからこそ辿り着けるようになった次なる目標へ向かって、“ハマの大怪獣”はこれからも止まらず驀進していくはずだ。