【DEADSTOCK】 Fake? x MA$A$HI / ForMula
『ヴァルハラ』の衝撃から9年。エレクトロニカからハードコアまでを血肉としたアングラヒップホップの異形、8th wonderの2/3、Fake?とMA$A$HIがタッグを組んで、再び新しいページを繰り始める。
『ヴァルハラ』の衝撃から9年。エレクトロニカからハードコアまでを血肉としたアングラヒップホップの異形、8th wonderの2/3、Fake?とMA$A$HIがタッグを組んで、再び新しいページを繰り始める。
Fake?の焦燥は、311を経て、また別の形を取った。熱を匿いながら醒めているそのライミングを、MA$A$HIの冷たいビートがコーティングする。本作のリリックの多くは2010~2012年の間に書かれたものだ。寓話形式のリリックを追求するFake?は、従来のヒップホップの一人称の私語りではなく、物語世界の登場人物の視点から綴るリリックも多い。それは311の影響を受けて書かれた、新しい命を迎える男の心境を描いた「Onomatopeace」、ネグレクトのシングルマザーがヨガに目覚め平穏な生活を取り戻す「Yoganic」、アンドロイドとエイリアンとアナログな人間が、汚染された地球を離れ他の星を探しに行く「A+A+A」などにも顕著だ。その他にもエモーショナルなビートにSeiをフィーチャリングし、一方でラッパー側からの苦しみを、他方で声を失った女性ブロガーの妬みを二つの視点から描いた「Envy」や、Meiso率いるMedetativeクルーのMCたちを総動員したソウルフルなビートのポッセカット「Experi-Mental」なども聴きどころ。一方のMA$A$HIの
ビートは、ピアノネタとブレイクビーツによるサンプリングの美学を追求した前半から、電子音を多用したスペイシーな後半へ向かって表情を変えながら遷移する。Fake?のラップ曲とビートテープのようなMA$A$HIのインストビートが交互に現れる構成の本作は、両者のトーンが相まって、全編通して渋く抑えたサウンドに貫かれている。
■PROFILE
Fake?( フェイク)
1977年生。千葉県出身。ビートメイカー兼MCのMA$A$HI、MCのKSKと2000年に結成した8th wonderの一員としてマイクを握り、2007年の『焦燥EP』、2009年のアルバム『ヴァルハラ』をリリース。その後も、ビートメイカーAuthenticとのユニット「Rare Metal Corpse」や、ビートメイカーEeMuとのユニット「BUDDHA SLAVE」名義でも活動し、それぞれアルバムをリリース(後者の『Quarter Men』はLOW HIGH WHO?からのリリース)。
MA$A$HI( マサシ)
1975年生。〈ゲンロン 佐々木敦批評再生塾〉初代総代。批評家/ビートメイカー/ラッパー。『ele-king』や『ユリイカ』誌などで音楽批評中心に活動、『ゲンロンβ』で「アンビバレント・ヒップホップ」連載中。ビートメイカー/ラッパーとしては8th wonderやImmigrate Usでの活動の他、直近で
はMA$A$HI名義でMeisoのアルバム『轆轤』をプロデュース。主著に『ラップは何を映しているのか』(大和田俊之氏、磯部涼氏との共著)。